とと炉の立ち退き料を取り戻すまで

とある通りに面したところに、居酒屋「とと炉」がありました。「とと炉」は、静かにひとり酒を楽しむ人や、仲間と楽しく酒を酌み交わす人たちや、つまみに舌鼓を打ちながら「美味しいね」と、ささやきあうカップルなどに親しまれているお店でした。

ところがある時、お店のビルのオーナーから、立ち退きを迫られてしまいます。ようやくこの地域に馴染んできたと思っていたので、青天の霹靂のような出来事でした。このブログでは、居酒屋「とと炉」が、立ち退き料を取り戻すまでのことを綴っていきます。

正当事由

お店に訪れる法律に詳しいお客さんに立ち退きのことを相談してみると、まず「正当事由があるかどうかが知りたい」と言われました。
「正当事由」とは、立ち退きの事情や条件、契約違反の有無、お店の賃貸借契約の種類などからトータルに判断されるものなのだそうです。

仮に正当事由が認められた場合、オーナーから立ち退きを通告されてから6ヶ月から1年のうちに、賃貸借契約が終了してしまうため、立ち退きをせざるを得ないようです。

ただし、正当事由が認められなかった場合には、オーナーに対して、立ち退きの拒否や立ち退き料を請求できる権利があることも教えてもらえました。

立ち退きのよくある勘違い

立ち退きでよくある勘違いとして、書面で通知されてから6ヶ月後には賃貸借契約が自動的に終了してしまうのではないか?といういうことがあるそうです。

私も相談する前はてっきりそうなのかと思っていたのですが、実際には「書面による通知」と先程の「正当事由」の2つが揃ってはじめて立ち退きの必要が発生するとのことでした。

そんな訳で、とりあえず急いで立ち退かなくて良くなったこともあり、その日はホッとして、お客様と一緒に飲みすぎてしまった記憶があります。

立ち退き料と相場について

前回までは正当事由に関するお話をしてきましたが、いよいよ今回からは「立ち退き料」についてのお話です。

立ち退き料の内容は4つの補償

立ち退き料は、正当事由として認められないオーナー側の立ち退き要求を、円満に立ち退きを成立させるために支払われるお金です。立ち退き料の内容には4つの補償が含まれています。

1.引っ越しの費用の補償

とと炉の場合ですと、次のお店への引っ越しの費用と、敷金や礼金や保証金、そして引越後の物件が引越し前の物件の家賃よりも高くなる場合、その差額ということになります。

2.売上などの補償

とと炉の場合では、お店が移転することでお客様が少なくなってしまった場合の売上の補償や、引っ越しや改装でお店が営業できないことの休業補償などがあります。

3.利用権の補償

ちょっと難しい言葉ですが、立ち退くことで、その場所の利用ができなくなったことへの補償ということです。

4.早期解決の補償

立ち退きが話し合いだけで解決すれば良いのですが、中には裁判となるケースもあります。そのため、裁判にかかる時間やお金や気苦労の代わりに、立ち退き料を支払うことで早期解決への補償とするものです。

立ち退き料の相場とは?

立ち退き料の相場というのは、実際にはありません。なんとなくこのくらいの金額というのがあるのかと思っていたので、このことを聞いた時には肩透かしを食った気分でした。

ただし、立ち退き料のおおまかな決め方というのはあるようで、オーナーと店子それぞれの事情や、物件のあるエリアの借家権価格、または過去の似たような判例を参考にした上で、最後はオーナーと店子の話し合いということでした。

事情については、年齢や資産や職業、健康状態や経済状態、家族関係や利用目的、契約や建物の築年数などが考慮されるそうです。

立ち退きの正当事由となる4つの例

立ち退きは、書面による通知と正当事由の2つが揃ってはじめて有効となることを前回お話しましたが、今回は、お客様から聞いた具体的な正当事由の内容となる4つの例についてお話していきます。

1.ビルなどの不動産の売却

立ち退きを求められるパターンの中で、高額な相続税の支払いや、オーナーが他から借りた借金の支払いに充てるために、オーナーがビルやマンションなどの不動産を売却するというものがあります。

ただし、正当事由として認められるためには、オーナーに不動産以外の他の資産がまったくない状態か、テナントに店子がいたままでは売却ができそうもないという状況でないと難しいそうです。

2.オーナーの親族が使う

続いて、オーナーの子供が結婚したので、子供夫婦の新居として使いたいから立ち退きをしてほしいと迫られるケースです。
ただし、こちらの場合もオーナー側に他の居住物件の選択肢がなかったり、立ち退きによる店子の経済的損失が極めて少ないという場合でないと正当事由としては認められにくいそうです。

3.建物を建て替えしたい

次は、ビルなどの建物が古くなったので建て替えをしたいという理由で、立ち退きを迫られるパターンです。例えば、ひどく老朽化してしまい、倒壊して近隣を巻き込む事故などの危険性がある場合、正当事由として認められることもあるようです。

4.オーナーが事務所や住居として使う

そしてもうひとつ、オーナーが事務所や住居として使いたいから、立ち退きをしてほしいとなるケースです。オーナー自身が賃貸物件に住んでいたり、その事務所で行う事業がオーナーの生活を支えるために必要不可欠であると認められますと、正当事由として成立することが多いようです。

ただし、店子が「とと炉」のようにお店として営業していたり、移転が難しい場合には正当事由として認められにくくなるそうです。

立ち退き料はこうして請求する

居酒屋「とと炉」の場合、オーナーから立ち退き料が提示された訳ではなかったので、こちらから請求する必要がありました。

まずは話し合いによる請求

まずは話し合いによる請求として、私の方からオーナーに、立ち退く代わりに「立ち退き料をください」と言いました。もちろんスンナリ「はい、そうですか」と支払ってもらえたわけではありませんが、第一段階ではこちらの要求が伝わればそれで充分なんだそうです。

内容証明による請求

立ち退き料の請求には、法律に詳しいお客様から、「内容証明というものを使ってみたら?」というアドバイスを受けたので、使うことにしました。
内容証明は、法的な拘束力はないものの、文書が交渉の証拠として残るため、特に立ち退き料の請求には向いている方法ということなのだそうです。

内容証明は、「いつ」「誰が」「誰に対して」「どんな内容を伝えたのか」ということを証明する文書です。そのため、よくありがちな「あの時はこう言った」「いや聞いていない」といった問題を防ぐことにつながります。

他にも内容証明を送ることで、「本気」ということが伝わるため、交渉相手へのプレッシャーとなるメリットがあります。そして、交渉相手が法律に詳しい人だったとしても、書面によるやり取りをすることで、うっかりと合意してしまうことも防ぐことができます。

調停による請求

話し合いによる解決ができない場合には、調停にて調停委員が同席する話し合いになります。

裁判による請求

調停でも解決しない場合には、裁判による請求となります。

まとめ~最後に

居酒屋「とと炉」は、調停や裁判に進むことなく、内容証明を使った話し合いで、立ち退き料を支払ってもらうことができました。今では元のお店から2駅先の場所で営業しています。ここまで読んでいただき、ありがとうございました。

立ち退き料が請求できない6つのケース

前回は正当事由として認められる可能性のあるケースについてお話しましたが、今回は立ち退き料が請求できない6つのケースについてお話していきます。

1.競売によるオーナーの変更

ビルやマンションの競売によってオーナーの変更があり、新たなオーナーから立ち退きを迫られた場合、抵当権が入居前に設定されていますと、新たなオーナーには立ち退き料の請求ができません。

2.店子側の契約違反

店子が家賃を滞納していたり、住居として契約したのにもかかわらず、無断で店舗として改装をしていた場合、契約違反となるため、立ち退き料の請求はできません。

3.一時使用を目的とした賃貸借契約

「海の家」のように夏の間だけ賃貸する場合や、転勤中の期間だけの賃貸契約の場合には、立ち退き料の請求はできません。ただし、契約の更新がありますと、通常の賃貸借契約となるため、立ち退き料の請求が可能となるケースがあります。

4.事前に取り壊しが決まっている

事前に取り壊しが決まっている予定の建物と賃貸借契約をした場合、立ち退き料の請求はできません。

ただし、契約書面に「建物の取り壊しの時期と同時に契約が終了する」ことと、「建物の取り壊しのための明確な理由」(老朽化や区画整理など)がきちんと記載されていることが条件です。

5.契約を更新しない契約

契約を更新しない契約である、「定期建物賃貸借契約」を結んだ場合、立ち退き料の請求はできません。定期建物賃貸借契約の条件は、「公正証書などの書面による契約書」にて、「契約期間満了と同時に契約終了となる」ことが記載されていることと、契約前に「定期建物賃貸借契約であることを説明および書面での交付」をしていることがあります。

6.正当事由

正当事由が認められた場合には、立ち退き料の請求はできません。立ち退きに合意した場合も同様です。